INICIAR SESIÓN5.
第伍話 読みの竹田
まずは麻雀をやろうということで細かいことを考えるのはとりあえずやめて牌を触ることになった。
コタツの板をひっくり返す。そこには麻雀用のラシャがある。(これは特別な作りではなくて古いタイプのコタツは全部そうだ)押し入れから牌を引っ張り出してきてガシャッと広げる。黄土色の練り牌だ。
「赤はどうする?」
「1枚ずつ入れよう」
「そうね、それが一般的だし、そうしましょう」
「点数は?」
「25000持ち」
「イチニーヨントーね」
イチニーヨントーとは一万点棒を1本、五千点棒を2本、千点棒を4本、百点棒を10本という状態を原点としますという意味だ。一般的な麻雀セットに五百点棒は入っていないのでこれが通常。
牌をジャラジャラとかき混ぜて裏返しにして17枚を集める。それを1列としコタツの端っこでシャンときれいに揃えると、もう17枚をさらにそこにきれいに揃えて2列目も整え、その2列目の上に1列目を乗せる。
ガシャン
これを4人ともがやって『山』が完成する。牌の枚数は34種136枚なので17×8で丁度だ。サイコロを振って親を決めたらゲーム開始!
ついにこの日、麻雀部の記念すべき一回戦が始まったのであった。
東家 財前カオリ
南家 財前マナミ
西家 佐藤ユウ
北家 竹田アンナ
立会人は佐藤スグル
「「よろしくお願いします!!」」
元気よく挨拶をしてゲームが始まった。
「リーチ」
打⑨
東1局は親のカオリが見事な山読みをして先制リーチを打つ。しかしこの場には竹田アンナの罠があったのだった。その罠にカオリはものの見事にハマってしまう。
竹田アンナ手牌
二三八八⑦⑧233445西西 ドラは3
高め高めと引けばタンヤオも付くのでここから切る牌は西が合理的だと言える。が、アンナがこの時見ていたのはカオリの捨て牌とユウの捨て牌。
カオリの捨て牌には④③が4巡目5巡目と並んでいた。そして西家のユウは2巡目に西切り。
アンナの選択
打八
立会人のスグルはそれを見ていてこっそり耳打ちする。
(あのさ、竹田さんは役は全部知ってるのかな?)
(あ、タンヤオのことですか? 大丈夫ですよ。知っててコレ切りなんです。あとで理由は言いますね)
スグルには意図が分からなかった。西はあとで安全牌として落とすことを考えてるのだろうか? でもこれは勝負手だからオリや迂回を考えた打ち方をするのはどうなんだ? そう思ったが……。
そこでカオリからリーチが飛んでくる。
「リーチ」
と同時にアンナもテンパイ。
「私もリーチです!」
リーチ合戦となりカオリは少し気まずそうにする。そしてツモ⑨。宣言牌を被らせてしまう。
その時カオリの顔が少し曇る。
「ツモ!」
竹田アンナの一発ツモだ。
アンナ手牌
二三⑥⑦⑧233445西西 四ツモ
「メンピン一発ツモドラドラ…裏1。3000.6000!」
「さっきのことだけど、やっぱりほらココは西落としとけば倍満になってたんじゃないの?」とスグルは言う。しかし。
「それはどうでしょうか。カオリ先輩の待ちってなんでした?」
「う、西よ」
そう言い手牌を開けるとカオリはチートイツの西単騎だった。
「というわけです」
「マジかよ…… つまりカオリちゃんの④③リャンメンターツの序盤外しからチートイツの狙いを予測し、であるなら西家のユウが2巡目に捨てた西は待ちごろの牌として持ってるかもと考えて、その牌が無いという情報を封印した、結果カオリちゃんは山に無い待ちでリーチしてしまい逆を残せば一発ツモだった手を空振り、そしてこっちが逆に一発ツモした。そういうことかよ」
竹田アンナは伊達にテーブルゲーム研究部などに入っていないという超一流プレーを見せつけた。
「ま、実際に西待ちだったのは偶然ですけどね。うまくいきましたー♪」
読みの手練れ竹田
その力はいとこの竹田シンイチ譲りのものだった。アンナのいとこもまた勝負師なのである。その能力は財前姉妹へと部活を通して受け継がれていくのだが、それはまだ先の話。
235.財前姉妹 エピローグ 少女の心のままで その後はというと。 カオリとマナミは女流Aのタイトル戦へ挑むもシオリにことごとくやられるので武者修行が必要だという結論になり大学卒業後は都内の雀荘へと就職する。そこは、シオリが言っていた最強メンバーの集う雀荘『富士2号店』。そこに2人の師である佐藤スグルが働いていたことには驚いた。世界は狭い。 ユウたちの麻雀教室は軌道に乗り水戸の麻雀業界は栄え始めた。ユウの教室があるおかげで麻雀人口が増えているのだ。その後何十年にも渡ってユウ、アン、ショウコは水戸から麻雀界のファン人口を増やすことに貢献する。 ヤチヨはセット雀荘で働きながら麻雀作家として活動し、ヒロコはネット雀士として活動した。ヒロコの活動は麻雀系映像創作者、いわゆる麻雀配信者のはしりとなる。 サトコとヤヨイとナツミはジュンコの会社で働くこととなりサトコはジュンコ引退後月刊マージャン部の編集長になり、ジュンコは後に麻雀のできる小料理屋を作りたいという女性に出会い、その手伝いをするようになる。 メグミとアカネは今では女流雀士のリーダーだ。アカネは後に理事となり、そのさらに十数年後、メグミは団体初の女性理事長となる。 そして、ミサトは――「じゃあ、私は行くから。いつでも電話してきてね!」「気をつけてね」 車を購入したミサトはプロリーグも休場して全国をユキと一緒に旅することにした。行く先行く先で麻雀を広めていこうと。時には雀荘の臨時スタッフとして活動。時には学生相手に麻雀教室。麻雀を広めながら2人は日本中を旅した。「ほんとにミサトはタフなんだから。延々と車で寝泊まり生活とか、理解できないわよ」とカオリはつぶやいた。
234.一章 最終話 幸せな大人「「ありがとうございました!!」」 試合終了の挨拶をするとインタビューが始まった。『財前カオリ選手! 優勝おめでとうございます!』「ありがとうございます」『今回は初タイトルということでお気持ちはいかがですか!?』「はい、夢のようです。私のような未熟な打ち手が獲れるようなものではないと思っていたので。もちろん、私なりに全力を尽くしましたが、それでも今回は運が良かったなと思います」『ライバルの井川プロとは――──────「ああもう、すごく時間かかっちゃった! 今日はあと数時間しかないのにー!」「カオリ。何をそんなに慌ててるの?」「今日中にやりたいことがあるの! ミサト! 悪いけど私は先帰るから! 今日はいい試合だったね。ありがとう!」「うん。カオリ、すごく強くなったね。……負けたのはやっぱり悔しいけど、成長したあなたと最高の舞台で戦えたことは、嬉しくも…思う。……今日は、おめでとう!」「ありがとう!!」 カオリは急いで駅へ向かい帰りの電車に乗り込んだ。《本当に何をそんなに慌ててるんですか?》(…あなたねー。明日には私が二十歳になっちゃうからもう会えないんでしょ? 今日のうちにたくさんお話ししておきたいのよ! あ な た と !)《ああ、なんだそのことでしたか!》(なんだじゃないわよ! 大事なことよ!)《別に消えると言っても…… ラーシャさんもマナミに憑くのをやめただけで今も居ますしね》(居るってどこに)《部屋に居ますよロフトに。毎晩私と一緒に念で作り上げた牌並べてはあー
233.第十六話 最後の罠カオリ手牌一二三四六七八九23334 伍ツモ『ツモりました! 財前! すばらしい!!』『トップ逆転しましたねー! さあ、裏ドラは?』(((せめて裏は乗らないで!!))) カオリの豪快なツモアガリを見て3人がそれを同時に念じた。そう、師団名人戦にアガリやめはない。4000オールならここでミサトを2800点差まくったわけだがそれで「はい優勝おめでとう」と終わるものではない。だからせめて4000オール止まりにして欲しいのだ。6000オールになるのはキツイ。裏ドラ西「4000オール」 3人の祈りは届いてなんとか4000オール止まりだった。(よし、2800点差。そのための前局のダマテンよ)とミサトは思った。この点差ならテンパイノーテンでも再逆転できる。オーラス一本場 ドラ9 左田ジュンコは最後の可能性に賭けて国士無双をやることにした。そこには罠も迷彩も何もない。バレて元々の特攻だった。しかし……。ジュンコ手牌一九①6東東西西北白発中中 ⑨ツモジュンコ打6「ポン」『鳴いた! 白山シオリが叩きました!』『白山の手。倍満級のトップ逆転手まで育つ可能性はありますからね』カオリ手牌二二三四四伍伍⑤⑤⑥⑦⑧南 伍ツモ『さあ財前はテンパイです!』打南「ポン」『あーーーっと! 財前の捨てた南を白山が鳴いた! これ2枚目ですね』『はい、ですので左田の国士は不可能となりました!』(くっそーーーいいとこまで行ったのにお終いかー。あと南と1と9だけだったのにな! まあ、9(ドラ)は白山が固めてそうだけどね……) そう、白山シオリは倍満ツモ条件であるのに6索をポンしたと言うことは役ホンイツトイトイドラ3が本命であり9索はもちろん1索を引く可能性も低そうな感じではあったのだ。白山手牌1133999(南南南)(666) アガリは出ぬまま局は進み15巡目―― 井川ミサトは絶体絶命だった。ミサト手牌一三四六③⑤⑦⑨22289 (クソッ! 全然揃わない。ああ、私はなんでカオリと決勝まで当たりたくないなんて思ってしまったんだろう。おかげで願いが叶ってしまった。最悪な形で。そうよ、カオリの成長速度は凄まじいと分かっていたのに。それなら少しでも早くカオリと当たりたいと思わなければダメだったんだ。成長する前に叩かないと
232.第十伍話 それでもあなたを……オーラス ドラ伍 親のカオリは目一杯まで広く取っていく。まるでマナミのように攻めた手順を採用した。そしてそれはミサトも同じであったしシオリやジュンコもまだ当然諦めていなかった。『さあ、オーラスですがいかがですか小林プロ』『いやー! 見応えある戦いですね。オーラスは点差からして井川有利というのは間違いないんですが、財前カオリは侮れません。なんとなくですけど、やはり彼女がここで一撃決めてくる気が……してしまいませんか?』『確かにそうですね。それに白山も左田も諦める人たちじゃありません。最後まで良い勝負をしてくれるんじゃないでしょうか!』 オーラスはカオリの手が早かった。4巡目カオリ手牌 親番一二三三四六七八九2333 4ツモ『財前! テンパイだ。あっという間に張ったー!』「リーチ」打三『なっ!』『イッツー確定に取りました! 力強い!』《この待ち取りは伍萬がドラなだけに価値がある。リャンメンをカンチャンにして不思議ない手です。あくまで自然ですからね! さあ、ここで伍(わたし)を引いて勝ちましょう!》(…………)カオリツモ七打七《どうして!? なぜ引かないんですか?! もう山にないとか?》(ううん、そうじゃないけど。やっぱり私、能力は使わないでいたいの)
231.第十四話 みんなで来た最高峰の舞台南3局 白山シオリの親番 この局のシオリの捨て牌は特殊だった。おそらくはチートイツ狙い。もしやのチャンタや四暗刻も可能性はあるが、まあ確率的に考えて本線はチートイツと読んで良いだろう。 麻雀とは不思議なもので、チートイツとチャンタと四暗刻はそれぞれ全く違う手役であるのに捨て牌は似たような傾向になる。 そんな局の7巡目。カオリの手が整ってくる。カオリ手牌伍六④⑤⑥⑧⑧2345北北 6ツモ ドラ6『おっと、財前カオリ! いい所を引いてきた!』『北を外せばメンタンピン三色ドラ1のハネマンへ進みますね』しかし……(私たちはみんなの知恵を借りてここまで来た! そうだよね、杏奈)カオリ打⑧『おっとこれは?』『なんでしょう…… ⑧筒を先に外して好牌先打(こうはいせんだ)でしょうか?』 いや、そうではない。◆◇◆◇同時刻水戸―― アンは喫茶店仕事の休憩時間に名人戦のLIVEを観ていた。「あっ!! ⑧筒切り! ……これは、私の麻雀だ。ここから⑧筒外しは私の『いい待ちヘッド作戦』だ。親がチートイツやってるから」(……さっきはさっきでミサトさんがユウさんみたいなミスリードする麻雀を披露するし。カオリさんもミサトさんも私
230.第十三話 私の中の佐藤ユウ南2局 井川ミサトの最後の親番 ミサトには非常に期待値の高い手が入っていた。そんな6巡目。ミサト手牌 切り番三三三四七②③④④⑥⑦234 ドラ7 場にはピンズの上がポロポロ出ており⑤-⑧あたりはサクッと引いてこれそうだった。 七切りすれば全箇所で受け入れ豊富なイーシャンテンだ。しかし。ミサト打④『んんんんん??』『井川、これは不思議な選択をしました。何のために七を残したのでしょうか?』『ちょっと、わかりませんね。たしかにこの手に①を引いてしまうと勿体ないとは思いますが……』(解説者さんたちは困惑してるとこじゃないかな。この、ユウがやりそうな選択は。私の中の佐藤ユウがここは七萬を囮に残せと言っているの!)3巡後ミサトツモ⑧『張った! 勝負手』「リーチ」打七 スパッと美しく牌を横に曲げる。その所作一つとってもフリーに通い始めの頃のミサトとはまるで違う。林アヤノを見て習ったプロの所作。井川ミサトもカオリ同様に凄まじく成長していた。同巡カオリ手牌二三四伍六七八④⑤7788 7ツモ ドラ7『あっ! 財前カオリもテンパイしました!』『いやでもこれは、二切りになってしまいますよ!』『もしかして…… いや、間違いない。待ちの反対側となる上の牌を囮として引っ張ることで本命を上だと思わせ